嫡出否認の訴え

嫡出否認の訴え

民法の「嫡出否認」の規定は違憲だとして神戸市の60代女性ら4人が国に計220万円の損害賠償を求めていた訴訟の判決が,11月29日,神戸地方裁判所でありました。冨田一彦裁判長は,「規定には合理性があり,憲法に違反しない」と述べ,請求を棄却しました(原告側は控訴の予定)。

民法772条1項は,「妻が婚姻中に懐胎した子は,夫の子と推定する。」と規定しています。

そして,「婚姻中に懐胎した」かどうかよく分からないこともあるので,「婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は,婚姻中に懐胎したものと推定」するという定めがあります(民法772条2項)。

こうして,婚姻中に懐胎した後に生まれた子は,「嫡出子(ちゃくしゅつし)」と呼ばれます。

しかし,民法の規定からすると嫡出子の要件を満たすのに,実際は夫の子ではないこともありえます。そこで,民法は,「夫は,子が嫡出であることを否認することができる」と定め(民法774条),夫から嫡出否認の訴えを起こすことができるとしています。そして,提訴期間は,夫が子の出生を知った時から1年以内に制限されています(民法777条)。

今回の神戸地方裁判所における問題点は,この規定が,夫にのみ嫡出否認の訴えの権利を与え,妻にはその権利を認めていないことが,憲法違反(14条の平等原則)に反するものではないか,ということにあります。

原告の女性は,約30年前,元夫の暴力を理由に別居している間に,夫ではない男性との間に長女を出産しました。しかし,長女の出産は元夫との離婚前であったため,元夫の子と推定されてしまい,本当の父である男性の子として出した出生届は受理されませんでした。原告の女性は,元夫との接触を恐れ,元夫に嫡出否認の訴えを起こしてもらうことができず,長女とその子2人は昨年まで無戸籍になってしまいました。訴訟では,「妻や子が訴えを起こせれば無戸籍にならなかった」と主張されていましたが,結局,裁判所は,妻や子が嫡出否認の権利を行使できると,子が法的な父親を失う不都合も生じかねず,「子の身分を早期に安定させるため,嫡出否認の要件を厳格に制限した現行の規定には合理性がある」と指摘して,原告の請求を退けました。

民法が父にのみ訴えの権利を与えたのは,沿革的には,夫の名誉を守ることにあると言われていましたが,今日では,むしろ,家庭の平和の破壊を防止するためであると考えられています。夫が子を嫡出子であると認めて平和に暮らしているのに,妻の一方的な訴えで嫡出子であることを覆せるとなると,家庭の平和が簡単に破壊されてしまう,ということです。

しかし,本件のように,完全に家庭が破壊された状態にあった時にできた子供についてまで,画一的に夫にしか嫡出否認の訴えの権利がないとするのは,あまりにも女性や生まれてきた子に酷です。

嫡出否認の訴え自体の改定でなくとも,嫡出推定自体の規定を見直すという方法もあるでしょうし,嫡出否認の訴え権者を妻や子にも広げた上で,その運用を厳格にするなどの方法も考えられます。

上級審での判断が楽しみです。

2017.11.30 弁護士檜山洋子